温故知産

 

雨の日に傘を持つように災害にもあたり前の備えを
【母乳育児は防災デザイン。オキシトシンと母乳の不思議】
イベントリポート②

2023年は関東大震災から100年。節目となる今年、【母乳育児は防災デザイン。オキシトシンと母乳の不思議】をテーマにトークイベントが開かれました。「防災」という観点から母乳育児焦点を当てて、防災と母乳育児について考えるイベントです。

佐竹直子さんに続き2人目のトークは、つくば市危機管理課の鬼塚宏一さん。テーマは「無理なく無駄のないフェーズフリーという考え方」。防災の第一線に立つ鬼塚さんがまず語ったのは、意外でショッキングな事実でした。

鬼塚宏一さん:まずみなさんにお詫びさせてください。災害があったとき、行政はみなさんの生活をそのまま維持することはできません。あくまでも最低限の生活をキープすることしかできないんです。それをわかっておいていただきたい。

東日本大震災でつくば市は、震度6弱、場所によっては震度6強ありました。被害が多かったのは、マンション・アパートよりも体育館でした。みなさんが避難所だと思っている体育館が壊れるんです。耐震工事が進んでいない体育館は、地震のゆれで大きな壁と大きな窓にゆがみが生じます。

つくば市で他に壊れたのは、古い木造の庁舎です。東日本大震災の1年前に建てられた新庁舎は倒壊しませんでした。自治体が庁舎を建て替えるとなると反対する住人がたくさんいます。お金がかかるから。でも、もし災害時に庁舎機能が動かなくなってしまうと何もできなくなるんです。ですから、今後、みなさんの市区町村で庁舎建て替え計画があれば、反対しないであげてください。

私の経歴は、つくば市総務課、年金課、教育委員会を経て、現在、防災課で課長をしています。多くの職員は2-3年、長くて5年で異動になります。つまり、防災課といってもその道のプロではないんです。避難指示を出すタイミングや回数は、プロではない人にゆだねられている。これが日本の行政の実態です。ですからみなさん、自分の身を自分で守る意識を忘れないでください。

災害時のリスクは一人ひとり異なるので、まずは自分のリスクを知るところから防災を始めてもらえればと思います。

――市役所の防災課の現場で働く人からのリアルな声。普段、聞くことができない貴重なメッセージでした。

続いての登壇者は、本イベントの主宰者の一人でもある三宅はつえさん。三宅さんは助産師で、「産む人と医療者をつなぐネットワーク REBORN」に所属。NPO法人子連れスタイル推進協会副代表でもあります。テーマは「保健指導に災害対策という視点を取り入れよう」です。黒のワンピースにぬいぐるみを抱かえての登場です。

三宅はつえさん:こんにちは。魔女の三宅です。助産師の仕事は、女性とその家族の人生に寄り添う仕事です。妊娠、出産、母乳の専門家として、助産師が関わり「魔法」を使うことで妊娠も出産も子育ても楽しくなったらいいなと思って活動しています。

開業助産師として新生児訪問によくうかがうので、こう質問します。「今日、これから地震があって、水道が止まったらミルクを作れる?」。みなさん、答えにつまります。助産師仲間や保健師さんにも聞きました。「災害時のリスク、どういうふうに指導してる?」と。「ええっと、うーんと」と答えがちゃんと返ってくることはなかった。

私が住んでいる地域では、幸いにも、電気が1日以上止まったことがありません。断水の経験もないので、みなさん、ライフラインが止まった場合を想定されていないんです。だから必ずお話をします。

「水ってどのくらい必要だと思う?」。一般的には3日分の備蓄といいます。ですが、巨大地震が起こると3日間では復旧しない可能性がある。だから、赤ちゃんの分は10日分くらい用意しておいた方がいいと思うんです。じゃあ10日分はどのくらいだろうと考えてみる。みなさん、1回分のミルクの量はわかるんです。例えば1回100mlのミルクを飲む赤ちゃんが1日8回飲むとすると、1日分は800ml。10日分だと8L。

次は、ガスが止まったらどうやってお湯を沸かす?と一緒に考えて、カセットコンロの用意をしておく。ミルクは70℃以上のお湯で溶かないといけないのですが、災害時は冷ますための水もないですよね。

そうすると、水筒に70℃のお湯と冷たい湯冷ましを入れておいて、ミルクを入れるときに2つを割って使うといいとわかる。日頃から、水筒を入れたバッグにオムツも常備しておくと、災害が発生したときにバッグをつかみ持って出ればいいですよね。次は哺乳瓶の消毒ができないときのことを考えるんですが、実は母乳育児をしていると今まで話してきたこと、何にも心配しなくていいんです。母乳が出れば、災害時も赤ちゃんに栄養補給ができますよね。

だから助産師としては、母乳育児がスムーズにいくようなサポートを考えているんです。今日のイベントのテーマにあるように、母乳には幸せホルモンの1種である「オキシトシン」が影響しています。オキシトシンが分泌することで母乳が出るようになるんです。オキシトシンの分泌には、肌ざわりのいいぬいぐるみをなでるのが効果的だと言われています。母乳は出産して約3日後に作られるんですが、そのタイミングで十分にオキシトシンが出ていなければ、母乳の出が悪くなります。だから入院グッズにお気に入りの抱き枕を加えてもらって、授乳クッションとして使ってもらえたらと思います。母乳育児をしていることが、防災になることをぜひ知っておいてください。

―――時間内に少しでも多くの情報をと、矢継ぎ早に育児アドバイスを伝え続ける三宅さん。母乳育児の良さを伝えたい熱い想いがあふれていました。

イベントリポート③「本当に授乳しているのですか?」に続きます。